【第47回フリーワンライ】
お題『せんじょう(変換可)』『逃亡』『流れ星は何処に行くの?』
タイトル『流星号の純情』
一台のトラックが、田舎道をひた走る。
「おかあさん、あのトラック、流星号って書いてあるよ」
子供が指をさすトラックの荷台には、『流星号 流れ流れて 何処へ行く』と書かれている。
そのトラックには、リーゼントをびしっと決めた男がハンドルを握り、助手席にはタオルを頭に巻いてリュックサックを抱えた男が乗っていた。
リーゼントの男、ユウジは、幼馴染のテツをつれて、ある場所に向かっていた。
「もう、逃げんなよ」
ユウジは低い声で話しかけるが、テツからは何の言葉もなかった。
昨日、とある港町で、偶然行方不明だったテツを見かけたユウジは、そのままテツの首根っこをつかんで、故郷の町へ帰ってきたのだ。
「終わったことは、変えられねえんだ」
ユウジの言葉に、テツは自分の唯一の持ち物であるリュックサックを握り締めた。
5年間、テツは故郷から逃げていた。
ユウジは必死にテツを探し続けた。全国津々浦々を走る、長距離トラックの運転手として、さまざまな場所を探し続けて、ようやく昨日、船上から降りてくるテツを見つけて、そのままつれてきた。
「なあ、テツ」
「…わかってる」
テツは、小さくつぶやいた。
やがて、ある廃工場の前にトラックは止まった。
テツの実家があった場所だ。
テツは家業を継ぐつもりだったが、資金繰りが悪化して、父親が工場を閉じた。
夢も、目標もなくなったテツは、そのまま実家を飛び出した。
「あのときのままなんだな」
トラックから降りたテツはつぶやいた。
ユウジもトラックから降りたところで、別の人影に気がついた。
「トモコ…」
走ってきたのだろう、トモコは肩で息をしていた。
「ユウちゃんのトラックだって気がついたから…テッちゃんは、見つかった…?」
ユウジは無言でテツを親指で指し示す。
「テッちゃん!」
「と、トモコ…」
大粒の涙をこぼしながら、トモコはテツに駆け寄っていく。
「もう置いて行っちゃ嫌だからね!ずっとあたしと一緒にいて!」
すがりついたトモコを、ぎこちなくテツは抱きしめて、
「ただいま」
とつぶやいた。
それを見届けたユウジは、トラックへ乗り込んで、自宅方向へと走らせた。
途中、小さな子供が手を振っているのに気づいて止めると、娘のセリナだった。
「おかえりなさい、おとうさん!」
「ただいま、セリナ」
トラックに乗りたがったセリナを乗せて、ゆっくりとユウジは発進した。
「おとうさん、きょうは、なにをはこんできたの?」
「初恋のひとに、大事な届け物だよ」
『流星号の純情』 終
2015.05.03 にゃっかむ